こんどのお店でも、おぼえられてしまいました…
「ラテでよろしいですか」
あ、はい。
「トールサイズですね」
は、はい
「ホットのスターバックスラテ、340円です」
あ、マグカップで。
…突っ込みどころを残しておいてくれました。
こんどのお店でも、おぼえられてしまいました…
「ラテでよろしいですか」
あ、はい。
「トールサイズですね」
は、はい
「ホットのスターバックスラテ、340円です」
あ、マグカップで。
…突っ込みどころを残しておいてくれました。
某所で楽器コレクターと紹介されました…
言われるとたしかに、管楽器とかギターとかベースとかキーボードとか、ひとつだけではなくて持ってます。
でも、べつにコレクションしているわけではないのです。
ほら、よくありません?ものは、あるときには、ワをかけて集まるようなこと。
たとえば、蜜柑がおいしそうだったので買ってきたら、夕方、田舎の親戚から箱で届いたり、おまけに遊びにきたともだちが手土産に持ってきたり…
あるいは、お昼にトンカツのランチセットを食べたら、夜に老舗のトンカツ屋さんに誘われてしまったり…
本命さんのメアドを聞き出したら、むちゃくちゃタイプのコと仲良くなったり
…あ、これはあまりありません。
おなじですよ。おんなじ。
ワをかけて集まってくるんです。楽器に限らず…限らないのか…
でも、高いのもは買ってません。安いのがワラワラ…ワラワラなのか…
ほら、ひとが、「こんな安物はダメだから」って言ってると、なんか不憫で買ってあげたくなるじゃないですか。
あと、質屋さんの店先で、ブランドもののハンドバッグやネックレスの棚に挟まれて、ぽつんと一万円ぽっきりで売られてる楽器とか。
で、そんなんだから、弾こうと思うと、まずちゃんとしたお店で調整してもらいます。
「いつごろ買ったの?」
友だちに譲ってもらったんで、よくわからないんです←質屋さんで買ったとは言えない。
「ぜんぜんダメだよ。これ」
…
で、で、そんなんだから、売るにも売れなくて、よけいにモノが増えていきます。
*
最近は、ちゃんとフンベツがついてきたので、ほしいモノがあっても、たいていのものは、その場で決めずに、ちゃんとうちに帰って考えてから決めるれるようになりました。
うちに帰ると、カタログや雑誌を広げたりして、値段とか性能とか評価とかをちゃんと調べます。
調べるだけで満足しちゃうものもあります。調べてるうちに売れちゃうものだってあります。
お姉さんをデートに誘おうと思って、お店のシフトを調べてたら、すでにカレシ持ちだったりもします…なんのはなしだ。
メーカーや代理店に問い合わせたりもします。
あんまり頻繁に問い合わせるものだから、担当のかたに覚えられたりもします。
「新品を買ってくれたら楽器に名前を彫ってあげますよ」
悪魔のささやきが…
ここだけのはなしですが、アイドルファンです。
だから毎年アイドルカレンダーを買っています。
でも、毎年一冊だけにしていくあたりが、オトナの ふんべつ です。
今年は、カレンダーの棚を前にして悩んでいます。
宮崎あおい ちゃん にするか、加藤ローサ ちゃん にするか。
カレンダーの前で悩んで立ちすくんでいると、買い物をしているおばちゃんが怪訝な表情で通り過ぎます。
一年間部屋を飾るのです。おばちゃんの視線ごときで妥協は許されません。
去年と今年は、宮崎あおいちゃん でした。その前の二年間は違うアイドルさんでした。ローテーションから言うと、ことしは加藤ローサちゃんです。
でも、加藤ローサちゃんは、映画に出ていません。映画ファンとしては、ここを突かれると痛いです。
宮崎あおいちゃんの映画は、ちゃんとDVDで買っています。『パコダテ人』も『害虫』も『富江』だって持っています。『NANA』を買うかどうかは考えさせてください。
あ、でもでも加藤ローサちゃんはイタリア語会話に出てました。一年分ぜんぶ録画しました。だからちゃんとイタリア語であいさつだってできます。ぴあちぇーれ・いお・み・きあーも・だれそれ です。
そういえば、イタリアにクルマの部品を注文したことだってあります。でもイタリア語より、絵を描いてファックスで送ったほうが通じました。使えない言葉です。
お店のひとも怪訝な顔でこちらをうかがっています。こんなに真剣に悩んでいるとも知らず、きっと怪しいアイドルオタに見られているに違いありません。
でも、こんなところで妥協してはいけません。妥協しちゃうと銀行で配っているセザンヌだかゴッホだかのカレンダーまで堕ちてしまいます。
いや、セザンヌやゴッホがいけないわけではありません。それをカレンダーにするのもまだよいのです。それを壁にはっちゃうと、とたんに田舎のおばあちゃんちになります。
おばあちゃんは、おおきなおなべで、あったかいお汁粉をこさえてくれるのです。
ほりごたつで、お汁粉のおわんを抱えていると、長い尻尾を立てたシロクロのネコが擦り寄ってくるのです。ネコの名前は、シロです。まえに居たネコがシロだったので、そのあとに居ついたこのネコも、やっぱりシロなのです。
はっ。そんな話しではないのです。
来年のカレンダーです。こんなときは日本古来のやりかたに従うしかありません。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な…」
これは二つでやると、はじめたほうと違うほうで終わってしまうのです。だからほしいほうとは違うほうからはじめなければいけません。でも、「てんじんさま」を「てんのかみさま」と言い換えると、はじめたほうで終わるのです。だから、ほしいほうとちがうほうからはじめたからって、油断してはいけません。注意深く指を動かします。
ほしいのが決まっているんだったら、こんなことする必要はないじゃない。なんて考えてはいけません。こんなことするってことは、もういっぽうも捨てがたいってことなのです。
…あれ?いま「てんじんさま」って言ったっけ?「てんのかみさま」って言ったっけ?
「…の・い・う・と・お・り」
来年のうちのカレンダーは、宮崎あおいちゃんです。
髪を切りにいきました。
案内された席に座ると、鏡のまえに手作りふうの冊子。
美容師さんを待っているあいだ、手にとってめくってみます。
最初のページこそ、料金表ですが、つぎのページからは、花の写真と、その花の花ことば。そして、花言葉にまつわる優しい物語りが、便箋に書かれた手書きの文字で綴られています。
日本の昔ばなし、ギリシャの神さま、恋人たちの物語り…読んでくれたひとが少しでも幸せな気持ちになってくれたらいいな…そんな思いが、ちょっとだけくせのある文字から伝わってきます。
このお店、近くに住んでいる女性なら、まず知っているくらいの、ちょっと有名なお店。
チラシ配りもしていないお店なのですが、それだけに、この 手作りのおもてなしは、ちょっと意外で、でもうれしく感じられます。
*
お店のひとが作ったんですか?
髪を切ってくれている美容師さんに聞いてみます。
「割引きのキャンペーンにあわせて、受付けの子が作ったんですよ」
このお店の受付けのお姉さん、背も高くて、お店の店員さんでなければ話しかけることもためらわれるほどの美人さん。ファッションこそ、いつもナチュラルメイクに膝の隠れる丈のスカートで地味めですが、それでもじゅうぶん目を惹くほどで、「花ことば」ってタイプではありません。
美容師さんにそんなことを言ってみます。
「よければ嫁にもらってくれませんか(笑)」
うぁぁ。なんですか。それは。そんな、あんな美人さん、恐れ多いです。
…でも、帰りには、この冊子の話題で、ちょっとだけお話しできました。…うれしい。
横浜の繁華街、関内。その裏通りの小料理屋さん。
戦前に生まれて、戦争中は中国にいて、終戦で日本に引き上げてきてからは、この小さなお店で子供たちを育てて…
そんな話しをしてくれた おばあちゃんのお店。
「イイ男しか相手にしないんだよ」
そんな顔をして、おばあちゃんの飼い猫が相手をしてくれたお店。
おばあちゃんが体を壊したあとは、息子さんが守ってきたお店。
お客さんの即興のギターや、ザ・ゴールデンカップスの話しに時間の経つのも忘れたお店。
きょう、半年ぶりに訪ねたら、月末に立ち退きで店じまいなのだそうです。
お店が立ち退いたその後にはマンションが建つそうです。
この街には、新しいマンションがいくつも建ちました。
マンションにあわせるように、大きなパチンコ屋さんもいくつもできました。
小さな飲食店がいくつもなくなりました。
映画館がなくなりました。靴磨きのおばちゃんがいなくなりました。
どこでも見かけるチェーン店のカンバンばかりが目立つようになりました。
「この街に未練はないよ」
もうすぐなくなるお店の中、そんなつぶやきが聞こえました。
バイオリンケースを抱えたお姉さん…
いいですよねぇ。
電車のなかで、バイオリンケースを抱えているというだけで、ポイントがあがります。毎日がポイント3倍の日です。
バイオリンケースは、四角いやつじゃなくて、外からみてもバイオリンケースだとわかるやつじゃないとバイオリンとわからないのでだめです。
ケースの取っ手には、小さなマスコットがぶらさがっていることが重要です。
ぶらさがっているのは、くま か はち です。ねこ や ねずみ は減点の対象です。
ハードケースよりも、外側が布になっているケースのほうが使いこなしてるって感じがして好感度アップです。
でも、うすよごれていてはダメです。ケースを綺麗に使っていなければ好感度アップは期待できません。
最近は、バイオリンケースかなと思ったら、ウクレレケースだったりするので注意が必要です。
ただ、たいていのウクレレは扱いがぞんざいだったりするので、注意して見ていればわかります。
…なにが言いたいかというと、
きょう、電車の向かいの席に、バイオリンケースを持って座ったお姉さんがかわいかったのです。はい。
いまの仕事場の近くのスタバは駅の構内にあります。
その場所がらのせいか、ビジネスマン風のひとたちが電車の時間まで打合せをしていたり、おばちゃんのグループがおしゃべりで時間を潰していたり、むずがる赤ちゃんをあやしながらお母さんが食事をしてたりと、ひとの話し声も大きく、あまり落ち着けません。
お店も小さくて、満席のことも少なくありません。
いまの仕事場が好きになれない最大の理由です。
それでも、頻繁にお店にいっていると、店員さんも顔をおぼえてくれたようです。
レジで飲み物を頼んでいると、よく顔をあわせるべつの店員さんが通りかかって挨拶してくれました。
「こんにちは」
…ちょっとうれしい。
おこたの季節ですね。でも…
おこたが苦手です。
あぐらをかくと、足が痛いのです。
正座をすると、足が痺れるのです。
横座りをすると、横に転がるのです。
足の伸ばすと、後ろに転がるのです。
座椅子を使ってみても、おしりがもぞもぞ落ち着かないのです。
おこたの湿度も、なんとなく苦手なのです。
でも、冬はおこたの季節です。
だから、どてらを着て、おこたに入って、背中を丸めて、ひざに猫を乗せて、蜜柑の皮をむきながら、テレビで水戸黄門を観る[*]のが憧れなのです。
—
蜜柑の皮をむきながら、テレビで水戸黄門を観る:オリジナルは「炬燵で蜜柑を食みながら、テレビで水戸黄門を観る」(c)高校の後輩。
ほかにも氏は「みそ汁の具には、タマネギが美味しいことを、みんな忘れてますよ」など、日本人の根源に関わる名言を残しました。
きっと、氏は、いまごろりっぱな日本人になっているに違いありません。
遠くに出かけてゆくひとに、無事に戻ってほしいと願いを込めてかける言葉。
たとえば、横浜の港。
欧羅巴への留学に出発する謙次郎と、それを見送る絹子。
出港前の喧騒のなか、人目をはばかることなく抱擁を交わすふたり。
暫しの抱擁を終え、絹子は、いまにも溢れようとする涙をこらえ、気丈な声で、思いのたけを一言に込めます。
「いってらっしゃい」
謙次郎は深くうなずくと、中折れ帽をかぶりなおし、革の旅行かばんを片手で持ち上げ、そして絹子に背を向けて、ラッタルを上る人の列へと歩き出します。
…ほら、いい言葉でしょ。
*
たとえば、お城を遠くに望む庄屋屋敷。
京で患った労咳の療養のために離れに逗留している総二郎の元にも、幕府軍の苦境が伝えられています。
そして、ある晴れた朝、前庭で手水を使っていた総二郎は、ご城下に上る黒い煙りを目にします。
床を出るやいなや、ご城下の様子を見てくると駆け出した庄屋のあと、屋敷には総二郎と、総二郎の乳母でもある、年老いた庄屋の母親が残されます。
黙々と、夜着を着替え、腰に得物を挿しふたたび前庭び現れた総二郎の、その尋常ならざる表情に気づいた老婆は、前庭で腰を深々と折り、一言だけ、皺枯れた声を総二郎にかけます。
「いってらっしゃい」
…うん。こういうのもかっこいいですね。
*
話し変わって、仕事場の近くの飲み屋さん。
昼は定食をやっています。
カウンターにはいつも近所の常連さんがいて、一見さんは小さなテーブルに座って、料理ができてくるのに、程よい時間がかかって、お店がそこそこ混んでくると、そこでカンバンになって…こ綺麗なわけではないけれども、居心地のいいお店です。
元気のいいおかみさんが、ひとりで切り盛りしているそのお店。
お昼を食べ終えて、お店をでるとき、こう言って送り出してくれます。
「いってらっしゃい」
…下町がちょっとだけ好きになります。
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