観覧車

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遊園地にいこう。と言い出したのは 父さんだった。

シゲルくんに野球を教えてもらう約束をしていた僕は、父さんの提案を断るつもりだったんだけど、いつになくご機嫌な笑顔を向けてくる父さんを見てると、断ってしまって父さんを悲しませるのは悪い気がして、言い出せなかったんだ。

父さんがタンスから引っぱりだしてきた、白いタイツに紺色の半ズボンの上下を着せられて、たぶんその頃のうちでいちばん上等の格好をさせられた僕は、父さんの運転するライトバンの助手席で、あしたシゲルくんに会ったらなんて言おうかって考えていたはずなんだ。

遊園地では、父さんに、回転ブランコだとか、コーヒーカップだとかに乗せられていた。
そして、クラスの女子がどんなにバカか。とか、シゲルくんがどんなに足が速くて、ドッチボールが上手くて、そのシゲルくんのいちばんの友達が僕なんだってことをたぶん話していた。
父さんは、僕の話に相づちをうちながら上機嫌に聞いていた。

夕方になって、父さんは僕の手を引いて観覧車の列に並んだんだ。観覧車の入り口では、制服を着たおじいちゃんがチケットを受け取っていた。

父さんがチケットを渡すと、おじいちゃんは最初、変な顔をした。でも、父さんがなにかを言ったら、おじいちゃんは にっこり笑って、僕の頭に手をおいて「ゆっくり楽しんでおいで」って言ったんだ。

観覧車からなにが見えたか。とか、帰り道にどこに寄ったか。とか、次の日にシゲルくんとどんな話をしたか。とか、みんな忘れちゃったけど、父さんと一緒に電車に乗ってるときに窓から観覧車が見えて思い出して、あのときのことを聞いてみた。

あのとき 父さんは、係の人に3枚のチケットを渡したんだって。係の人は、一枚多いよ。って返そうとしたんだけど、今日は娘の、僕の妹の命日だから一緒に乗るんです。って言ったんだって。そしたら係のひとは、チケットそのまま受け取ってくれたんだって。

でも父さんは、チケットを受け取った係の人は、お嬢さんだった。なんて言ってるから、この話もどこまで本当かなんてしらない。