「柿、いっこだけ欲しいんですけど」
小さなくだもの屋さん。まえを通りかかったら、並んだ柿がおいしそうで、お店の中に声をかけてみました。
柿は日本の固有種なんだそうです。つまり日本に生まれていなければ、柿が食べれないということです。
柿を採るのために登った柿の木が折れて地面に背中から落ちたり、近所の柿を盗っておじさんに追いかけられたり、やっと採った柿に齧りついたら渋柿だったり、という、この果実ひとつに血と汗を流す経験も日本人しかできないということです。
子供のころ、そんな経験を積んできた日本人としては、お店に柿が並んでいて、素通りできるはずがありません。
「いいですよ。どれにしましょ」
おいしいやつ。というと、ご主人が選んでくれて、手に乗せてくれました。
柿は、食べ物の毒消しになるそうです。精進料理に柿が出るのは、そんな理由があるのだそうです。わさびと同じですね。でも柿は甘くて美味しいから毒消しだけ食べれます。わさびだけ食べると鼻が痛くで泣きそうになります。
「このままでいい?」
柿を手に乗せたまま、もういっぽうの手でポケットから硬貨を出して渡します。
シリアだかレバノンだかに行っていた知人によると、むこうでも柿が食べれるそうです。彼の地でも、やっぱり「かき」と呼ぶんだそうです。とすると、レバノンの子どもも、近所の柿を盗って、おじさんに追いかけられたりしてるのでしょうか。
ほかにスペインやイタリア、イスラエルでも、柿が「かき」として食べれるそうです。キリスト教もユダヤ教もイスラム教も浄土真宗もみんななかよく「かき」です。もうこれは平和の合い言葉です。さあ、みんなで声をあわせて言いましょう「か・き」っ。
空想に浸っていたら、うちに帰り着いたので、さっそくいただきます。…日本人に生まれた幸せ〜です。