お昼に入ったトンカツ屋さんで、粋なおじいさんと相席しました。
麻のスーツに、ネクタイを結んで、夏の中折れ帽。「こざっぱり」という表現がいちばんしっくりくる服を残暑にも着崩すことなく、向かいの席で丼物を食べていたおじいさん。
ごはんをかき込み、陶器のジョッキでビールを飲み、じじみのおみおつけをすすり…という順番の動作が、ゆっくりではあるけれども、動作が大きくて、それがほんとうに美味そうなんです。
こんなにおいしそうに食事をしているかたの前では、携帯電話を開くことも失礼に思えてしまい、持ってきた文庫本に目を落とします。
おみおつけを飲み終えて「ああ、うまかった」と一人ごちて、お茶をすすってゲップをして…普段だったら耳障りな音も、このおじいさんだと、聞いているだけでなんとなく幸せな気分になってしまいます。
頼んだ食事に箸をつける頃、おじいさんは食事を終えて、店員さんに持ち帰りの食事を注文しています。
しばらくして、席を待っているお客さんが増えてくると、おじいさんは、持ち帰りの食事を待たずに席を立ちます。気になって見ていると、勘定を済ませたおじいさんは、レジ脇の椅子に腰掛けて扇子を使っています。
おじいさん、待っているお客さんのために、席を空けてくれたのだそうです。
江戸気質(かたぎ)の粋です。