ぷかり

かあさま かあさま
おそらに なにかうかんでますよ。
くじらみたいな かたちしてますよ。
おそらにういてる くじらですよ。
きっと とおい おそらから やってきたんですよ。
きっと夏がだいすきな くじらですよ。
夏をおいかけて おそらを旅してるんですよ。

かあさま かあさま 知ってますか。
外国には ずっと夏の国があるんですよ。
秋になっても冬になっても春になっても、
つぎの夏まで ずっとずっと夏なんですよ。
あのくじらも ずっと夏の国に いけるといいですね。
おそらも あついですか くじらさん。


撮影データ
カメラ:HOLGA 120N
フィルム:KODAK PORTRA 160NC

マルハナバチ

かあさま かあさま。
おおきな はちがいますよ。
まるいまるい かあさまが よんでくれた おはなしにでてきた はちですよ。
おおきな はなのあいだを あっちこっちと とびまわっているんですよ。

もう夏が おわりだから いそいで みつをあつめているんですか。
おうちに いっぱい あかちゃんがいるんですね。
いっぱい みつをあつめなきゃ いけないんですね。
だから こんなにちかくで みてても にげださないんですね。

でも はやくかえらないと あかちゃん さみしいですよ。
はやく かえってあげてください。はちさん。
あたしも かあさまがいないときは ずっと かあさまを まってますよ。


撮影データ
カメラ/レンズ:CONTAX ST/Carl Zeiss Makro-Planar 2.8/100
フィルム:KODAK PORTRA 400

星のかんむり

かあさま かあさま。
ちいさな おはなが さいていますよ。
おかしみたいな おはなですよ。
お星さまの かんむりも のっていますよ。

かあさま かあさま。
あたし かあさまが つくってくれた
おはなの かんむりを おぼえていますよ。
おはなを あんでつくってくれた かんむりですよ。
おうちにかえるまで ずっとあたまに のっけてましたよ。

かあさま かあさま。
こんどは あたしが かんむりを つくりますよ。
おそらの お星さまを あんでつくりますよ。
せかいで いちばんすてきな かんむりですよ。


撮影データ
カメラ/レンズ:CONTAX 159MM/Carl Zeiss Planar 1.4/50+CONTAX REVERSE
フィルム:KODAK PORTRA 400

1981年の夏休み

まだメールも携帯電話もなくて、女の子の家に電話すると必ずお母さんが出て、「どんなご用件ですか?」なんて訊かれるものだから、用もないのに電話できる女の子っていうのは、幼なじみの女の子だけに限定されてしまう狭い世界に生きていたんですよ。僕たち。

そんで、幼なじみの女の子っていうのは、なぜか、ちょっと気になる女の子と親友だったりするわけで、だからと言って安易に紹介してもらったりすると、それこそ一生弱みを握られちゃうわけですよ。

でも、そこはそれ、さすが幼なじみ。口に出さなくても、そこはかとない態度で察するものがあるらしくて、さりげなく紹介してくれたりするわけで、不敵に微笑みながら弱みを握られていくワケですよ。もう幼なじみにアタマが上がらないカリッと青春ですよ。

カメラマンのいとこに借りた一眼レフカメラに Tri-X を詰めて、保護者として付いていく。って言ってくる幼なじみを言いくるめて、はじめて出かけた公園で、標準レンズで一杯に近づいてシャッターを切るんですよ。カメラがないとそんない近づけないですよ。もうドッキドキですよ。

翌日は夏休みの補習授業もそこそこに部室でフィルムの現像ですよ。そんな日に限っていつもは誰もいない部室にひとがいたりするんですよ。みんな帰るまで ただガマンですよ。まだ撮影してないフィルムなんか無駄に現像しますよ。

そんで、やっときのう撮ったフィルムを現像してみると、メ一杯近づいたつもりが、ぜんぜん近づけてなかったりするんですよ。ピントなんか甘々ですよ。カメラも返さなきゃなんないから撮り直しなんてできませんよ。いつか標準を超える日がくるんですよ。たぶん。

…きょうと同じ暑い日に。

アリンコ目線

春の花と夏の花の境目の公園の花壇のなんにも咲いてないように見える草叢に、よくみると小さな小さな花が咲いています。

ひょっとしたらアリンコには、花の季節なのかもしれなくて、きっと意中のアリに、ボクの女王さまになってください。とかいって、アリンコサイズの花束を渡したりして、ああそれでこの季節にはアリの巣別れなんかもあるんだなあ。

…と思ったりしたものですから、アリンコサイズの花が撮れるカメラ持ち出して公園に這いつくばってアリンコサイズの花を撮っています。

「おじちゃんなに撮ってんの?」

ちっちゃな女のコがきいてきます。

「撮ったの見せて」

フィルムカメラだからすぐには見せれません。これでまたアリンコ目線の理解者を失ってしまいました。そんな梅雨の晴れ間。


撮影データ
カメラ/レンズ:CONTAX RTS/Carl Zeiss Distagon 2.8/28+CONTAX REVERSE
フィルム:KODAK PORTRA 400

根岸飛行場

昔、この先は南の島につながっていたそうです。
庶民的とはいえないけれど、一部の人たちだけに許される、というほどでもない運賃を支払えば、だれでもここから赤道の向こうの島へ旅立つことができました。

滑走路はなく、海上を滑って飛び立つ飛行艇専用の飛行場には、巨大な飛行機が着水した海面から、そのまま陸に乗り上げることのできるスロープがありました。

麻のスーツに中折れの夏の帽子をかぶった長身の紳士が、重そうな革の鞄を持ち上げて歩き出そうとすると、着物を着た女の人が、すっと寄ってきて紳士の腕に軽く手を添え、紳士の横顔を見つめる。なんてシーンがこの場所で展開されたにちがいありません。

紳士は、目を伏せてなにも言わずに通路に足を進めて、飛行艇の胴体からおりたタラップをのぼるんです。

紳士が飛行艇に姿を消すまで長回しのワンカットですよ。

飛行艇のエンジンの音が大きくなって、飛行艇はゆっくりと機体を回して海に入っていくのをカメラはロングショットで追いかけるんです。

着物の女の人は、涙も見せず、飛び立つ飛行艇をただみつめるんです。

くそー。かっこいいなー。
キャストは高峰秀子さんでお願いします。

戦争が始まって、飛行場には軍隊がやってきたそうです。
そして、戦争が終わったときに占領軍に引き渡される飛行機がこの飛行場を使ったのが最後だったそうです。

梅雨の晴れ間に。

かあさま。かあさま。
おひさまがでてきましたよ。

はち も あわてて みつを あつめてますよ。
あじさい も いっぱいひらきましたよ。
きっと、あじさい も はち が くるのを たのしみにしてたんですね。

かあさま。かあさま。
しってました。
はち は あじさい の かふんっていうのをはこんで
あじさい が きれいにさくのを
てつだいしているんですよ。

あたしも かあさまの かいものかご
はこんで おてつだいしますよ。
そしたら かあさまも ずっときれいなままですよ。


撮影データ
カメラ/レンズ:CONTAX 159MM/Carl Zeiss Makro-Planar 2.8/60 C
フィルム:KODAK PORTRA 400

マウスピース


荷物を整理していたら、トロンボーンのマウスピースがでてきた。
ジャズの勉強をしたくて買った小さめのマウスピース。
あのときの楽器は手放してしまったけれど、高校の頃に、お小遣いを貯めて買ったスチューデントモデルは まだ捨てきれずに持っている。

押し入れの奥に仕舞っていたトロンボーンケースを引っぱり出す。
ケースを開くと、ちょっとくたびれてはいるけれど、スライドとベルに分かれて納まった楽器の金色が蛍光灯に輝く。
ケースからスライドを取り出し、インナーパイプを抜き出してオイルを塗る。
二三度動きを確認して、スライドをもう一度ロック。
左手でスライドを持ったまま、右手でケースからベルを持ち上げる。
ベルとスライドを繋ぎ、ロックの螺子を回す。

この時間、お隣はだれかいるだろうか。
きっと、苦情がくるだろうな。
でも、ほんの一曲、ほんの数分だけだ。
これが終わったら、また楽器を押し入れに仕舞おう。
そして、また、いつもと同じ暮らしに戻ろう。
朝起きて、満員の電車に揺られて、仕事をして、帰りに一杯だけの高いコーヒーを飲んで。
そんな暮らしに。

ゆっくりと息をだし唇を振るわせる。
チューニングパイプを引き出して、B♭に合わせる。

あの頃、この曲の入ったアルバムばかりを聞いていた。
いつか きみとのデュオを夢見てた。
K と JJ のように。

スライドを Fのポジションに構える。

そして
It’s All Right With Me.

八重桜。

かあさま。かあさま。
ふわふわの お花がいっぱいですよ。
やえざくら っていうんですか。
これも さくら なんですね。

どうして、おほりばたの さくら と いっしょに さかないんでしょうね。
きっと、どっちが きれい って比べられるのが いやなんですね。

おほりばたの さくら は ねえさま みたいに きれいだったけど、
こっちの さくらは やさしくて かあさま みたいですよ。

かあさま。かあさま。
ふわふわの お花の下を いっしょに 歩きましょうよ。


撮影データ
CONTAX TVS Digital