昔、この先は南の島につながっていたそうです。
庶民的とはいえないけれど、一部の人たちだけに許される、というほどでもない運賃を支払えば、だれでもここから赤道の向こうの島へ旅立つことができました。
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滑走路はなく、海上を滑って飛び立つ飛行艇専用の飛行場には、巨大な飛行機が着水した海面から、そのまま陸に乗り上げることのできるスロープがありました。
麻のスーツに中折れの夏の帽子をかぶった長身の紳士が、重そうな革の鞄を持ち上げて歩き出そうとすると、着物を着た女の人が、すっと寄ってきて紳士の腕に軽く手を添え、紳士の横顔を見つめる。なんてシーンがこの場所で展開されたにちがいありません。
紳士は、目を伏せてなにも言わずに通路に足を進めて、飛行艇の胴体からおりたタラップをのぼるんです。
紳士が飛行艇に姿を消すまで長回しのワンカットですよ。
飛行艇のエンジンの音が大きくなって、飛行艇はゆっくりと機体を回して海に入っていくのをカメラはロングショットで追いかけるんです。
着物の女の人は、涙も見せず、飛び立つ飛行艇をただみつめるんです。
くそー。かっこいいなー。
キャストは高峰秀子さんでお願いします。
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戦争が始まって、飛行場には軍隊がやってきたそうです。
そして、戦争が終わったときに占領軍に引き渡される飛行機がこの飛行場を使ったのが最後だったそうです。